朝10分、夜15分。発達特性のある子と向き合う父親の工夫
限られた時間での、発達特性のある子との向き合い方
多忙な日常を送る中で、子育てに十分な時間を割くことが難しいと感じる父親は少なくないでしょう。特に、お子さんに発達特性がある場合、どのように関われば良いのか、限られた時間で何ができるのか、悩みを抱えることもあるかと思います。
私自身も会社員として日々業務に追われ、朝は慌ただしく、帰宅は遅くなりがちです。しかし、我が子(小学校低学年)に特定の音が苦手であったり、一つの物事に強く集中する傾向があったりといった発達特性があることが分かり、これまで以上に子どもとの関わり方を考えるようになりました。
長い時間を確保するのは困難でも、短時間でも質の高い関わりは可能なのではないか。そう考え、試行錯誤を重ねて実践している、朝と夜の短い時間での工夫についてお話しさせてください。
朝の10分:見通しを持たせ、気持ち良く送り出す
朝は時間との勝負です。多くの家庭で、子どもがスムーズに支度を進められず、親も子も焦りやイライラを感じやすい時間帯ではないでしょうか。我が子も、次に何をすれば良いか分からなくなったり、気持ちの切り替えが難しかったりする特性があります。
そこで私が意識しているのは、朝の支度を「親が管理するもの」ではなく、「子どもが自分で進めるためのサポート」と捉え直し、短い時間で効果的に声かけや手助けを行うことです。
具体的には、朝起きてから家を出るまでのタスクをリスト化し、視覚的に分かりやすい場所に貼っています。子どもが一つタスクを終えるたびに、「次はこれだね」と具体的に声かけをします。単に指示するのではなく、「靴下を履いたら、次は朝ごはんを食べようね。それが終わったら、歯磨きだよ」のように、次の行動やその後の流れを先に伝えるようにしています。これにより、子どもは見通しを持ちやすくなり、次に自分が何をすべきか理解しやすくなります。
また、着替えや食事の際に苦手な感覚がある場合、無理強いはせず、代替案を一緒に考えます。例えば、特定の素材の服が苦手なら、「こっちのTシャツはどうかな?」と別の選択肢を提示したり、「ご飯粒が手に付くのが嫌なら、おにぎりならどう?」と提案したりします。この短いやり取りの中で、「あなたの気持ちを理解しようとしているよ」というメッセージを伝えることを大切にしています。
朝の10分、全てが完璧に進むわけではありません。それでも、子どもが自分でできたことを見つけ、「靴下履けたね、すごいね!」「もうご飯食べ終わったの?早いね!」と具体的に褒める時間を意識的に作ることで、子どもは自信を持ち、次の行動へのモチベーションにつながるようです。私自身も、「できたこと」に目を向けられるようになり、焦りが少し軽減されました。
夜の15分:興味に寄り添い、安心感を育む
帰宅後、夕食やお風呂、明日の準備など、やるべきことはたくさんあります。しかし、就寝までの短い時間でも、子どもと落ち着いて向き合う時間を持つことは、日中の緊張をほぐし、安心感を与える上で非常に重要だと感じています。
私が意識しているのは、この15分間は「私と子どものためだけの時間」と位置づけ、他のことは一旦脇に置くことです。この時間、子どもが最も興味を示していることに寄り添うようにしています。
例えば、特定のキャラクターや乗り物に強い興味がある場合、そのテーマの絵本を一緒に読んだり、短い図鑑を眺めたりします。「この電車のここが好きなんだね」「どうしてこのキャラクターのここが面白いの?」と、子どもの「好き」の理由やこだわりをゆっくり聞く時間にします。子どもは自分の好きなことを親が真剣に聞いてくれることで、満たされた気持ちになるようです。
また、簡単なブロック遊びやパズルなど、短い時間で達成感が得られる遊びも取り入れます。「ここにこれを置くと、もっと安定するんじゃない?」「お、ぴったりはまったね!」など、肯定的な言葉を添えながら一緒に手を動かします。この共同作業の中で、穏やかなコミュニケーションが生まれます。
さらに、子どもの体や心をリラックスさせるために、短い時間ですが、背中を優しく撫でたり、手を繋いだりといった触れ合いの時間も大切にしています。「今日も一日頑張ったね」「お父さんはいつも応援しているよ」といった、シンプルで温かい声かけを添えます。これは、感覚が過敏な子にとっては、触れ方の強さや場所に配慮が必要な場合もありますが、安心感につながる大切な時間です。
この夜の15分を通して、子どもは「お父さんは自分のことを分かってくれる」「自分は大切にされている」と感じてくれているのではないかと期待しています。私自身も、日中の仕事モードから子育てモードへと切り替える大切な時間となり、子どもとの穏やかな触れ合いに心が癒されています。
質を高める関わりのヒント:完璧を目指さずに
朝10分、夜15分という時間は、決して長くはありません。しかし、この短い時間だからこそ、意識を集中し、子どもの様子をよく観察し、丁寧に言葉を選ぶことができます。
重要なのは、時間の長さではなく、その時間の「質」です。そして、その質を高める鍵は、「子どもの特性を理解し、そこに寄り添うこと」、そして「親自身が完璧を目指さないこと」だと感じています。
- 子どもの「今」に集中する: 短い時間だけでも、スマートフォンを置く、他のことを考えない、子どもの目を見て話す、など、子どもに意識を向ける工夫をします。
- 肯定的で具体的な声かけ: 抽象的な褒め方ではなく、「〇〇ができたね」「〇〇している時、楽しそうだね」のように、具体的な行動や感情に焦点を当てて伝えます。
- 見通しを持つサポート: 次にすること、終わりの時間などを分かりやすく伝えることで、子どもが安心して行動できるよう促します。
- 無理強いしない: 苦手なことや嫌がることを無理強いせず、代替案を提示したり、一度中断したりする柔軟性も大切です。
- 夫婦で共有する: 短い時間での気づきや子どもの様子を、パートナーと共有することで、家庭全体で一貫性のあるサポートが可能になります。
小さな一歩から、できることを見つける
多忙な中で子育て、特に発達特性のあるお子さんの子育てに関わることは、時に大きな負担と感じられるかもしれません。しかし、何か特別なことをする必要はありません。まずは朝10分、夜15分といった短い時間でも、「この時間は子どものために使う」と決め、できることから一つずつ試してみてください。
完璧を目指す必要はありません。うまくいかない日があっても大丈夫です。「今日は少しでも穏やかに話せたな」「子どもが少し笑顔になった瞬間があったな」など、小さな変化や成功体験に目を向けることが、継続する力になります。
短い時間でも、子どもと心を通わせる瞬間は作れます。そして、そうした積み重ねが、お子さんの安心感や自己肯定感を育み、親子の信頼関係をより確かなものにしていくと信じています。応援しています。