多様な家族の物語

短い時間で子どもの「得意」を伸ばす:父親のための具体的な関わり方

Tags: 子育て, 父親, 発達特性, 子どもの得意, 関わり方

多忙な毎日を送る中で、子どもの「困りごと」や課題にばかり目が向いてしまうことは少なくないかもしれません。発達特性のあるお子さんの場合、さらにその傾向が強まることもあるでしょう。しかし、お子さんには必ず「好き」や「得意」があります。それらを見つけ、短い時間でも関心を持って寄り添うことが、お子さんの成長にとって、そして親子関係、さらにはご自身の気持ちにとっても、非常に価値のある時間となり得ます。

この記事では、多忙な父親が限られた時間の中で、お子さんの「好き」や「得意」にどのように気づき、どのように関わっていくことができるのか、具体的な体験談を通して考えていきます。

エピソード:電車の図鑑から広がった親子の会話

私の知人の父親は、小学生のお子さんに発達特性があり、集団行動や学習面で「困りごと」が多く、つい指摘や注意が増えてしまいがちだったと言います。平日は帰宅も遅く、子どもとゆっくり話す時間もなかなか取れませんでした。

ある週末、お子さんが図鑑を真剣に眺めている姿を見かけました。それが電車の図鑑でした。父親自身はそれほど電車に詳しいわけではありませんでしたが、「へえ、これ面白いね。何を見ているの?」と声をかけ、隣に座ってみました。

お子さんは最初は少しはにかんでいましたが、好きな電車の名前や特徴を話し始めました。父親は専門的な知識はなくても、「この電車、色はきれいだね」「へえ、こんな形をしているんだ」など、図鑑の絵を見ながらお子さんの話に相槌を打ち、質問をしました。お子さんは自分の知識を認められたことが嬉しかったようで、普段はなかなか話さない学校での出来事や友達の話まで、少しずつですが話し始めたそうです。

この出来事をきっかけに、父親は「困りごと」だけでなく、お子さんの「好き」に関心を持つことの重要性に気づきました。それから、通勤中に見かけた珍しい電車の写真を撮って見せたり、会話の糸口として「最近どんな電車が好きなの?」と尋ねたりするようになったそうです。一回の時間は数分から十数分程度でも、お子さんとの間にポジティブなコミュニケーションが生まれ、関係性が少しずつ変化していきました。

短い時間でもできる「好き」や「得意」への関わり方

このエピソードから学べることはいくつかあります。多忙な父親でも、お子さんの「好き」や「得意」に関わる時間は作れる、ということです。

  1. 観察し、具体的に声をかける: お子さんが何に時間を使っているか、どんな時に夢中になっているかを観察します。そして、「何してるの?」「それ面白いね」など、肯定的な関心を示す言葉を具体的に伝えます。
  2. 専門家になる必要はない: その分野の知識がなくても大丈夫です。お子さんの「先生」になったつもりで話を聞いたり、一緒に調べたりする姿勢が大切です。「これ知らなかったな、教えてくれてありがとう」という言葉は、お子さんの自己肯定感を育みます。
  3. 短い時間を有効活用する: 長時間一緒にいる必要はありません。朝の支度中、夕食後、お風呂に入る前、寝る前など、1日の中で数分でもいいのです。その数分間だけは、お子さんの「好き」に集中して耳を傾ける時間を意識的に作ってみましょう。
  4. 日常の中に取り入れる: 通勤中の発見をシェアする、お子さんの好きなキャラクターのグッズを一緒に探す、関連するニュースを教えるなど、日常生活の隙間時間に自然に取り入れる工夫をします。

夫婦での情報共有と連携

お子さんの「好き」や「得意」は、お父さんだけでは気づけない場合もあります。日中にお子さんと接する時間が長い配偶者から情報を得ることが有効です。

「最近、〇〇にすごく興味があるみたいよ」「△△が上手になってきたね」といった情報を共有してもらい、それをお父さんからの声かけや関わりのきっかけにするのです。また、夫婦で共通の認識を持つことで、「困りごと」への対応だけでなく、お子さんの良い面や成長にも目を向けやすくなります。夫婦で「今日、〇〇の『好き』なことに触れる時間を持てたね」といった振り返りをすることで、子育てへの前向きな気持ちを維持することにもつながります。

まとめ:ポジティブな関わりが拓く未来

お子さんの発達特性と向き合う子育ては、時に多くのエネルギーを必要とします。「困りごと」への対応はもちろん重要ですが、お子さんの「好き」や「得意」といったポジティブな側面に意識的に目を向け、短い時間でも寄り添うことには、それ以上の価値があるかもしれません。

それは、お子さんの自信につながり、親子のコミュニケーションを円滑にし、そして何より、お子さんの多様な可能性を拓くことにつながるからです。多忙な中でも、まずは今日から数分、お子さんの「好き」に耳を傾けることから始めてみませんか。その小さな一歩が、お子さんとの新しい関わり方を見つける大きなヒントになるはずです。