多様な家族の物語

子どもの「こだわり」との付き合い方:多忙な父親ができる小さな一歩

Tags: 子育て, 発達特性, こだわり, 父親, コミュニケーション, 体験談

子どもの「こだわり」、どう向き合えば良いか

子どもの成長を見守る中で、「これは譲れない」といった強い「こだわり」に直面する場面は少なくないでしょう。特に発達特性をお持ちのお子さんの場合、この「こだわり」が強く現れることがあります。特定の物、場所、手順、色など、その内容は様々です。

こうしたこだわりは、お子さんにとっては安心感を得たり、予測できない状況に対応したりするための重要な手立てである場合が多いです。しかし、ご家族、特に日々の業務でお疲れの中、限られた時間で子育てに関わるお父様方にとっては、どのように向き合えば良いか、悩ましいテーマかもしれません。「なぜこんなことにこだわるのだろう」「どうすればスムーズに進むのだろう」と、頭を抱えることもあるかと思います。

ここでは、私自身の経験に基づき、子どもの「こだわり」に、多忙な中でも無理なく、少しずつ向き合っていくための具体的な方法についてお話しいたします。完璧な対応を目指すのではなく、日々の小さな一歩から始められるヒントをお伝えできれば幸いです。

我が家での「こだわり」エピソード

私が直面した子どもの「こだわり」の一つに、「服のタグを異常に気にする」というものがありました。肌に少しでもタグが触れると、その場で固まってしまったり、激しく嫌がったりします。新しい服や、タグの位置が違う服は、たとえ気に入ったデザインでも着ることができませんでした。

最初は、「たかがタグくらい」と軽く考えてしまい、「我慢しなさい」「切ればいいじゃないか」といった言葉をかけてしまっていました。しかし、そのような声かけは全く効果がなく、かえって子どもの苦痛を増大させるだけでした。結果、毎朝の着替えは親子双方にとって大きなストレスとなり、出発時間が遅れることも頻繁にありました。

妻と話し合い、この「タグが気になる」という感覚過敏の可能性について学びました。子どもにとっては、私たちが想像する以上に不快な刺激であると理解した時、これまでの自分の対応を深く反省しました。

父親ができる具体的な工夫:受け止めとスモールステップ

子どもの「こだわり」が、単なるわがままではなく、本人にとって切実な理由があるのだと理解した上で、私はいくつかのことを試みました。

1. まずは子どもの感覚を受け止める

「タグが肌に触れて、チクチクして嫌なんだね」「この服のここが気になるんだね」と、まずは子どもの感じていることを言葉にして返すことから始めました。否定せず、「そうなんだね」と共感する姿勢を見せることで、子どもは「分かってもらえた」と感じ、少し落ち着くことができるようでした。これは、時間がない中でもすぐにできる、非常に効果的な第一歩でした。

2. 原因を取り除く工夫

タグが原因であれば、着用前に全ての服のタグを丁寧に切り取るようにしました。これは非常に単純なことですが、子どもの不快感を取り除く直接的な方法でした。全ての服を一度に行うのは大変なので、よく着る服から少しずつ進めました。

3. 変化への慣れを促すスモールステップ

タグを切り取っても、新しい服や素材への抵抗感はすぐにはなくなりませんでした。そこで、いきなり一日中着せるのではなく、「この服、少しだけ着てみようか? 嫌だったらすぐに脱いでいいよ」と提案しました。最初は数分でも、抵抗なく着ていられたら大げさに褒めました。これを繰り返し、着ている時間を少しずつ長くしていきました。

また、どうしても着てほしい服がある場合は、他の服の上から重ね着させて、直接肌に触れないようにするなどの工夫も取り入れました。無理強いせず、子どもが「これなら大丈夫かも」と思える小さなステップを踏むことを意識しました。

4. 夫婦での情報共有と協力

子どもの「こだわり」やそれに対する対応策について、妻と常に情報を共有しました。お互いの対応をすり合わせることで、子どもが混乱するのを防ぎ、一貫したサポートを提供できるようになりました。どちらかが対応に疲れたり、感情的になりそうになったりした時は、「代わろうか?」と声をかけ合うことも大切だと感じています。多忙な中で顔を合わせる時間が限られていても、短いメッセージのやり取りでも良いので、情報共有の時間は確保するよう努めました。

まとめ:完璧ではなく、「理解しようとする姿勢」を大切に

子どもの「こだわり」への対応に、明確な正解や魔法の解決策はありません。私たち親も試行錯誤の連続です。しかし、大切なのは、子どもの「こだわり」の背景にある理由を理解しようとする姿勢と、頭ごなしに否定せず、その子にとっての「大丈夫」を一緒に探していくプロセスだと感じています。

多忙な日々の中で、全てに完璧に対応するのは難しいかもしれません。しかし、「そう感じているんだね」と受け止める一言や、原因を一つ取り除くといった小さな工夫、変化への慣れを促すほんの少しのステップであれば、日々の生活の中で実践できるのではないでしょうか。

こうした小さな積み重ねが、子どもとの信頼関係を育み、将来、子ども自身が自分の感覚や特性と上手に付き合っていくための力につながると信じています。ご自身を責めすぎず、できることから、今日の小さな一歩を踏み出してみていただければと思います。