発達特性のある子と兄弟姉妹の関わり：父親が築く支え合いの関係
発達特性のある子と兄弟姉妹の関わり、父親ができること
子どもの発達特性について考える際、ご本人だけでなく、その兄弟姉妹との関係性も大切な視点です。特に多忙な父親としては、子どもたち一人ひとりと向き合う時間を作るだけでも精一杯なのに、兄弟姉妹間の複雑なやり取りにどう関われば良いか、悩まれることもあるかもしれません。今回は、発達特性のあるお子さんとその兄弟姉妹との間に、父親としてどのように支え合いの関係を築いていけるか、具体的な体験談を交えながら考えていきます。
兄弟間の「なぜ？」を理解し、関わる難しさ
私たちの場合、上の子が発達特性を持っています。下の子は定型発達ですが、年の差があまりありません。上の子の特性からくる独特な言動やこだわりに対し、初めのうちは下の子が「どうして〇〇なの？」と疑問に思ったり、時に反発したりすることがよくありました。
例えば、上の子が急な予定変更に強く抵抗したり、特定の音に過敏に反応して泣き出してしまったりする場面です。下の子は状況が理解できず、「なんで泣くの？」「わがままだ」と感じて、上の子との間に壁ができてしまうことがありました。私自身も、仕事から帰宅して疲れている時にこうした場面に遭遇すると、つい反射的に「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」「泣かないの」などと、表層的な声かけをしてしまい、かえって状況を悪化させてしまうことも少なくありませんでした。
父親が試した「見える化」と「橋渡し」
この状況を変えるために、私が意識的に取り組んだのは、主に二つのことです。
一つ目は、「特性の見える化と翻訳」です。上の子の行動の背景にある特性について、下の子にも理解できるよう、年齢に合わせた平易な言葉で説明する時間を作るようにしました。「お兄ちゃんはね、急にいつもと違うことがあると、頭の中がびっくりしちゃうんだよ」「大きな音が苦手だから、少し静かな場所に行きたいんだって」といったように、具体的な行動と結びつけて話しました。専門書を読む時間はなかなか取れませんでしたが、インターネットや支援機関から得た情報を、子ども向けに噛み砕く作業を寝る前の短い時間などで行いました。
二つ目は、「感情の橋渡しとポジティブな関わりの促進」です。下の子が上の子の言動に困惑したり、イライラしたりしている時は、「そうだね、〇〇されると嫌な気持ちになるね」と、まず下の子の気持ちを受け止めることを意識しました。そして、「お兄ちゃんも困っているみたいだよ」「どうしたらお兄ちゃんが落ち着くかな？」と一緒に考える姿勢を見せました。
また、上の子が下の子に対して優しさを見せたり、協力的だったりする場面を見つけたら、「〇〇君（上の子）が△△ちゃん（下の子）のこと気遣ってくれて、すごく嬉しいな」「二人で協力すると、早くできるね」といった具体的な言葉で褒めるようにしました。これは、上の子には自分の行動の良い側面を認識してもらい、下の子には上の子との良い関わり方を学ぶ機会を提供するためです。
小さな工夫が家族にもたらした変化
こうした小さな取り組みを続けた結果、すぐに劇的な変化があったわけではありませんが、少しずつ子どもたちの間に変化が見られるようになりました。下の子が上の子の特定の行動に対して、以前ほど感情的に反応しなくなり、「お兄ちゃん、大丈夫？」と声をかけたり、時には自分でそっと場を離れたりするようになりました。上の子も、下の子が自分の特性を少しずつ理解してくれていると感じることで、安心感を得られているように見えます。
もちろん、今でも兄弟げんかはありますし、悩むことも多々あります。しかし、父親が兄弟それぞれの気持ちを理解しようと努め、特性を「悪気がないこと」として家族全体で理解しようとする姿勢を見せることで、子どもたちは「自分は大切にされている」「家族はお互いを支え合うものだ」というメッセージを受け取ってくれたのだと感じています。
忙しい父親にできること：まずはお子さんの気持ちに耳を傾ける時間を作る
多忙な中で、兄弟姉妹それぞれのケアに時間を割くのは容易ではありません。しかし、週末の短い時間でも、それぞれの話を聞く時間を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。下の子には、上の子の特性について理解を深める機会を。上の子には、兄弟との関わり方で困っていることがないか尋ねる機会を。
そして、夫婦間で子どもの特性や兄弟姉妹間の状況について情報共有し、どのように声かけするか、どのようなサポートが必要か話し合うことも非常に有効です。一人で抱え込まず、夫婦でチームとして取り組むことで、より建設的な関わり方が見えてくるはずです。
発達特性のあるお子さんとその兄弟姉妹が、お互いを認め合い、支え合える関係性を築くことは、家族全体のウェルネスに繋がります。完璧を目指す必要はありません。今日からできる小さな一歩から、ご自身のペースで始めてみてください。