多様な家族の物語

発達特性のある子の「片付け」に困ったら:忙しい父親が試した小さな仕組み作り

Tags: 片付け, 整理整頓, 発達特性, 父親, 子育て支援, 家庭内サポート

多忙な父親が直面する片付けの悩み

私たちのウェブサイト「多様な家族の物語」へようこそ。ここでは、様々な家族が経験したインクルーシブな子育ての体験談を共有しています。今回のテーマは、日常生活で多くの方が直面する可能性のある、「片付け」や「整理整頓」についてです。

子どもの発達特性によっては、物の位置を把握したり、優先順位をつけて作業を進めたりすることに難しさを感じることがあります。部屋が散らかっていると、探し物が増えたり、次にやるべき行動に移りにくくなったりと、本人だけでなく家族全体の負担になることも少なくありません。特に、仕事で忙しい父親にとって、限られた時間の中でこの問題に向き合うのは容易ではないでしょう。「何度言っても片付けない」「どう教えればできるようになるのだろうか」と悩む声を聞くこともあります。

この記事では、私自身の経験を通じて、発達特性のある子どもの片付けに関する課題に、父親としてどのように取り組み、「小さな仕組み作り」がどのように役立ったのかをご紹介します。

具体的なエピソード:なぜ片付けが難しいのか、どう変わったのか

私の息子は、小学生の頃から自分の持ち物の管理が苦手でした。ランドセルの中はプリントや教科書がぐちゃぐちゃになりがちで、部屋の床には脱いだ服や使ったおもちゃがそのままになっていることが日常でした。「片付けなさい」と声をかけても、一向に改善が見られません。叱ることもありましたが、親子ともにストレスが溜まるばかりでした。

なぜこんなに片付けが難しいのだろうか、と観察するうちに気づいたのは、彼にとって「片付ける」という行為自体が、非常に複雑な作業であるらしいということでした。例えば、「机の上を片付ける」という指示は、彼にとっては「どれをどこにしまうのか判断する」「複数の物を分類する」「それぞれの場所まで持っていく」といった、複数のステップを含む、曖昧で大きなタスクだったのです。

そこで、私は「叱る」から「具体的にサポートする」方向へ切り替えました。最初に取り組んだのは、「物の定位置を決めること」でした。息子と一緒に、よく使うもの(鉛筆、消しゴム、ハサミなど)の場所を決め、それぞれの場所に簡単なラベルを貼りました。例えば、「えんぴつ」と書かれた小さな箱を用意し、使ったらそこへ戻す、というようにルールを明確にしました。

次に、一度にすべてを片付けるのではなく、「まずは机の上にある鉛筆だけを箱に戻そう」というように、タスクを小さく分割して伝えるようにしました。さらに、「片付ける時間」を意識的に設けるようにしました。例えば、寝る前の10分間は、翌日使うものだけを机に出し、それ以外はしまう時間とする、といった具合です。完璧にできなくても、「鉛筆を戻せたね、すごいね」と、できた部分を具体的に褒めることを心がけました。

これらの「小さな仕組み作り」を始めてから、すぐに劇的な変化があったわけではありません。それでも、以前に比べて探し物が減り、「これどこ?」と聞かれる頻度が減りました。また、片付けを始めるまでのハードルが少し下がったように感じました。息子自身も、どこに戻せば良いか迷う時間が減り、自分でできることが増えたことへの自信につながったようでした。失敗して散らかってしまうこともありますが、以前ほど感情的にならず、「どこに戻すんだっけ?」と一緒に確認できるようになりました。

小さな一歩から始める片付けサポートのヒント

この経験から得られた、忙しい父親でもできる片付けサポートのヒントをいくつかご紹介します。

  1. 「片付け」を分解して伝える: 「片付けなさい」ではなく、「まず、この本を本棚に戻そう」「次に、脱いだパジャマを洗濯かごに入れよう」のように、具体的な行動を一つずつ伝えましょう。
  2. 物の定位置を決める: よく使うものや、散らかりやすいものの「住所」を決めます。可能であれば、子どもと一緒に決め、ラベルを貼るなど視覚的な手掛かりがあると効果的です。
  3. 「片付け時間」を習慣化する: 「夕食後15分」「寝る前10分」など、短い時間でも良いので片付けの時間を生活リズムに組み込みます。毎日でなくても、週末だけなど無理のない範囲で始めましょう。
  4. 視覚的なサポートを取り入れる: 文字での指示が難しければ、写真や絵を使ったリスト、物の形に沿って線を描いた収納場所なども有効です。
  5. できたプロセスを具体的に褒める: 結果だけでなく、「自分で考えて本棚に戻せたね」「最後まで頑張れたね」など、片付けに取り組んだ行動や努力を具体的に認め、褒めることで意欲につながります。
  6. 夫婦で情報を共有し、無理なく分担する: 子どもの片付けに関する課題や、試している工夫について夫婦で話し合い、どちらかが抱え込みすぎないように協力しましょう。

これらの仕組み作りは、子ども一人ひとりの特性や年齢、家庭環境によって最適な形が異なります。大切なのは、一度作って終わりではなく、子どもの様子を見ながら柔軟に見直し、改善していくことです。

前向きな一歩を踏み出すために

発達特性のある子どもの片付けや整理整頓は、すぐに解決する問題ではないかもしれません。しかし、完璧を目指すのではなく、「少しでもやりやすくなるように」「親子でストレスなく取り組めるように」という視点で、「小さな仕組み作り」を試してみる価値はあります。

忙しい日々の中で、新たな取り組みを始めるのは大変なことです。しかし、ほんの数分でも良いので、子どもの片付けを一緒に手伝ったり、仕組み作りのために話し合ったりする時間を持つことで、確実に状況は変わっていきます。そして、子どもが自分でできた時の喜びや、部屋が少しでも片付いた時の清々しさは、父親である私たち自身の達成感にもつながります。

もし今、子どもの片付けに悩んでいらっしゃるなら、ぜひこの記事でご紹介した「小さな仕組み作り」の中から、一つでも試せそうなものを選んで、今日の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。焦らず、お子さんのペースに合わせて、一緒に前向きな一歩を踏み出していただければ幸いです。