多様な家族の物語

発達特性のある子と「約束」するコツ:多忙な父親が試した具体的なルール作り

Tags: 子育て, 発達特性, ルール作り, 父親の視点, コミュニケーション

家庭内のルール、なぜ難しいと感じるのか

子育てにおいて、家庭内のルールや約束事は、子どもが社会性を身につけ、自律的に行動するために非常に重要であると考えられています。しかし、特に発達特性を持つ子どもたちの場合、抽象的な指示の理解や状況に応じた柔軟な対応が難しく、ルール作りやそれを守ること自体が大きなハードルとなることがあります。

多忙な日々の中で、子どもに何度も同じことを伝えたり、ルールを守らせようとして親子間の衝突が増えたりすると、父親として「どうすれば良いのか」と悩まれる方も少なくないでしょう。私自身も、子どもが小さかった頃は、ゲームの時間や片付け、宿題など、日常の些細なことでも「約束を守る」ということがスムーズにいかず、疲弊してしまうことがありました。

ここでは、私が我が子と様々な試行錯誤を重ねながらたどり着いた、発達特性のある子との「約束」やルール作りの具体的なコツについて、体験談を交えてご紹介したいと思います。

エピソード1:曖昧な指示を具体的に変える工夫

以前は、子どもに「ゲームは少しだけにしようね」「部屋をきれいに片付けて」といった漠然とした言い方をすることがよくありました。しかし、子どもにはこの「少しだけ」が何分なのか、「きれい」がどの状態を指すのか、具体的なイメージが湧きにくかったようです。結果として、約束の時間を過ぎてもやめられなかったり、片付けたと思っても私から見ればまだ散らかっていたり、ということが繰り返されました。

そこで私が試みたのは、ルールを可能な限り具体的に、そして視覚的に示すことです。

例えば、ゲームの時間については、「ゲームは○時までね」という時間指定に加え、「ゲームを始めたらタイマーを○分にセットしよう」と提案しました。タイマーが鳴ったら終わり、という視覚的・聴覚的な合図は、子どもにとって非常に分かりやすかったようです。

また、片付けについては、「おもちゃは箱に」「本は棚に」といった具体的な置き場所を決め、写真やイラストで「片付いた状態」を壁に貼りました。「この写真みたいになったら終わりね」と伝えることで、子ども自身が目指すべき状態を理解しやすくなりました。

最初は戸惑うこともありましたが、このように具体的な目標と手段を示すことで、子どもは「何をすれば良いか」が明確になり、少しずつ自分でルールを守るための行動をとれるようになっていきました。完全に完璧になるわけではありませんが、以前のように「言っても分からない」と私が一方的に感じてしまう状況は減ったように思います。

エピソード2:ルールが守れなかった時の伝え方

ルールを具体的にしても、時には守れないことも当然あります。以前の私は、ルールが守れなかった時に、つい「どうしてできないんだ!」「さっき言ったばっかりなのに!」と感情的に叱ってしまうことがありました。しかし、これは子どもを萎縮させるだけで、次に活かすことにはつながりませんでした。

そこで意識したのは、ルールが守れなかった「事実」と、それに対する「感情」や「次にどうするか」を分けて伝えることです。

例えば、ゲームの時間を過ぎてしまった場合、まずは「タイマーが鳴った時、どう感じた?」と子どもの気持ちを聞いてみることから始めました。「もう少しやりたかったな」という子どもの気持ちを受け止めた上で、「そうだったんだね。でも、タイマーが鳴ったらおしまい、というお約束だったよね」と、決めたルールを冷静に確認します。

そして、「次にタイマーが鳴った時は、どうしたら終われるかな?」と、子ども自身に解決策や次の行動を考えてもらうように促しました。「あと○分でやめる」「終わったらすぐに教えて」といった具体的な行動を子ども自身が言葉にすることで、次に同じ状況になったときに思い出しやすくなるようでした。

また、ルールを守れた時には、具体的に褒めることを忘れないようにしました。「タイマーが鳴って、すぐにゲームを終えられたね。自分で時間を守れてすごい!」というように、どの行動が良かったのかを明確に伝えることで、子どもは「こうすれば良いんだ」と理解しやすくなります。

この方法を取り入れてから、ルールを破ったことへの罪悪感から頑なになることが減り、次に繋げるための建設的な話し合いができるようになってきました。

多忙な父親ができること:小さな一歩の積み重ね

これらの経験から、発達特性のある子とのルール作りにおいて、父親として意識したいポイントがいくつか見えてきました。

  1. 完璧を目指さない: 一度に多くのルールを作るのではなく、最も困っていることから一つずつ取り組み、少しずつ定着させていく姿勢が大切です。
  2. 具体性と視覚化: 抽象的な指示ではなく、「いつ」「何を」「どうする」を具体的に伝え、タイマーやリスト、イラストなどを活用することで、子どもは理解しやすくなります。
  3. なぜそのルールが必要か一緒に考える: 一方的に押し付けるのではなく、「なぜこのルールが必要だと思う?」と一緒に話し合うことで、子ども自身の納得感を高めることができます。
  4. 肯定的フィードバックを増やす: ルールを守れた時や、守ろうと努力した過程を具体的に褒めることで、子どもの自信につながり、次に頑張る意欲を引き出します。
  5. 夫婦で連携する: 決めたルールや対応方法を夫婦で共有し、一貫した対応を心がけることが重要です。忙しい中でも、短い時間で情報共有する工夫(例:メッセージアプリでの共有など)が有効です。

これらの工夫は、どれも特別なスキルを必要とするものではありません。日々の生活の中で、少しだけ伝え方や関わり方を変えてみる、といった小さな一歩から始めることができます。

まとめ:子どもとの信頼関係を築くために

発達特性のある子どもとのルール作りは、根気が必要で、すぐに目に見える成果が出ないこともあります。しかし、ここでご紹介したような具体的な工夫を通じて、子どもは「何をすれば良いか」を理解しやすくなり、自分で行動を調整する力を少しずつ身につけていくことができます。

そして何より、ルールを通じて子どもと向き合い、その子の特性を理解しようと努めるプロセス自体が、子どもとの信頼関係を築く上で非常に大切な時間となります。

多忙な中で子育てと向き合う父親の皆様にとって、この記事が少しでもお役に立ち、明日から試せる具体的なヒントとなれば幸いです。小さなことからでも、ぜひ取り組んでみてください。