多様な家族の物語

失敗を恐れる子への声かけ:父親が実践した自信を育む関わり方

Tags: 子育て, 発達特性, 父親, 自己肯定感, 声かけ

導入:失敗を恐れる子に、どう声をかけるべきか?

子育てにおける「失敗」は、成長にとって欠かせない学びの機会です。しかし、発達特性のある子どもたちのなかには、失敗することを過度に恐れたり、一度の失敗で深く落ち込んでしまったりするケースが見られます。多忙な日常の中で、そうした子どもの姿を見たとき、「どう声をかけたら良いのだろうか」「自分には時間がない中で何ができるのだろうか」と悩む父親の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この葛藤は、多くの父親が直面する共通の課題です。特に、子どもが失敗を恐れる背景に発達特性が関係している場合、その対応には定型的な声かけだけでは難しい場面も出てきます。この記事では、私自身の経験から、子どもが失敗を恐れる状況で、父親としてどのように関わり、子どもの自信や自己肯定感を育んでいったのか、具体的なエピソードを交えてご紹介します。

エピソード:宿題と「もうやだ!」

私の息子は、特定のことに強いこだわりを持つ一方で、新しい課題や少し難易度の高いことに対しては、すぐに「できない」「もうやだ!」と言って諦めてしまう傾向が見られました。特に宿題や学校で持ち帰る課題にその傾向が顕著でした。

例えば、算数の応用問題で少しつまずくと、ノートを投げ出しそうになったり、泣き出してしまったりすることがありました。「頑張ればできるよ」「もう少し考えてごらん」といった励ましは、息子の心には響かず、むしろ「自分はできないんだ」という気持ちを強めてしまうようでした。

一度、私自身も焦りからか、「こんな簡単な問題もできないのか!」と強い口調で言ってしまったことがあります。その結果、息子はさらに殻に閉じこもり、問題に向き合おうとすらしなくなってしまいました。多忙な仕事の合間に、子どもと向き合える時間は限られています。その貴重な時間で、こういったネガティブなやり取りが増えることは、私にとっても大きなストレスでした。

試行錯誤で見つけた、子どもの自信を育む声かけ

息子が失敗を恐れる様子を前に、私は試行錯誤を重ねました。書籍や専門機関からのアドバイス、妻との話し合いを通じて、私自身の関わり方を見直す必要があると気づかされたのです。

まず変えたのは、声かけの焦点です。結果としての「できた/できない」ではなく、そこに至るまでの「プロセス」や「挑戦したこと」に注目するようにしました。例えば、問題が解けなくても、しばらく考え込んでいた様子があれば、「難しい問題だったけど、〇分も粘って考えていたね。すごい集中力だ」と具体的に、その行動を褒めるようにしました。

また、失敗したことそのものを否定しないように心がけました。「間違えちゃったね」ではなく、「おっと、こうなったか。じゃあ、次はどうしてみようか?」と一緒に考えるスタンスを見せました。これは、「失敗は悪いことではなく、次にどうするかを考えるための材料である」というメッセージを伝えるためです。私自身の小さな失敗談(例えば、料理で焦がした話など)を笑い話として息子に聞かせ、「お父さんも失敗するんだよ。でも、そこから学ぶことがあるんだ」と伝えることもありました。

さらに、自信を失っている息子には、ほんの少し頑張れば達成できそうな「スモールステップ」の課題を設定しました。例えば、長い文章問題であれば、まずは「この一行だけ読んでみようか」と区切ったり、計算問題なら「最初の計算だけやってみようか」と促したりしました。そして、その小さな一歩ができたときに、「できたね!まずはここまでやろうと自分で決めて、ちゃんとできた。えらい!」と具体的に褒めることで、「自分にもできることがある」という感覚を少しずつ積み重ねられるように意識しました。

夫婦間でも、子どもへの声かけや対応について話し合い、できるだけブレがないように協力しました。私がプロセスを重視する声かけをした後に、妻も同じような視点で褒めてくれたり、あるいは私が忙しくて冷静に対応できない時には妻がフォローしてくれたりすることで、子どもは両親から一貫したメッセージを受け取ることができました。

学びとヒント:多忙な父親ができること

これらの経験から、多忙な父親でも実践できる、子どもの自信を育むための関わり方のヒントが見えてきました。

  1. 結果ではなくプロセスを承認する声かけ:「できたね」だけでなく、「これだけ頑張ったね」「ここを工夫したんだね」のように、努力や行動に焦点を当てて褒めることが重要です。これは短い声かけでも十分可能です。例えば、寝る前に今日の出来事を話す際、「今日は〇〇が難しかったけど、諦めずに△△までやったの、すごい進歩だね」と伝えるだけでも良いでしょう。
  2. 失敗を学びの機会と捉えるメッセージ:「間違えたからダメ」ではなく、「どうすれば次はうまくいくかな?」と一緒に考える姿勢を示しましょう。父親自身が失敗談を話すことも、子どもにとって「失敗しても大丈夫なんだ」という安心感につながります。
  3. 小さな「できた」を積み重ねる工夫:子どもの「これならできそう」を見つけ、そこから始められるようにサポートします。課題を小さく区切ったり、最初のきっかけだけ手伝ったりするなど、ハードルを下げる工夫が有効です。
  4. 感情に寄り添う傾聴:失敗して落ち込んでいるときは、まず子どもの「悔しい」「悲しい」といった感情を「〇〇だったんだね」と受け止めることが大切です。その上で、「じゃあ、どうする?」と一緒に考え始めましょう。
  5. 夫婦間の連携:パートナーと子どもの様子や、どんな声かけが有効かを共有し、対応の足並みを揃えることで、子どもはより安心して挑戦できるようになります。

まとめ:小さな一歩が、大きな自信へ

子どもの成長において、失敗は避けて通れない道です。発達特性ゆえに失敗へのハードルが高い子どももいますが、父親の適切な関わり方によって、失敗を恐れず、前向きに挑戦する力を育むことができます。

多忙な日々の中で、子どもと向き合う時間は限られているかもしれません。しかし、たとえ短い時間でも、結果だけでなくプロセスを承認する声かけや、失敗を共に乗り越えようとする姿勢を示すことは可能です。これらの小さな積み重ねが、子どもの中に「自分はできるんだ」「失敗しても大丈夫」という確かな自信を育んでいきます。

明日から、お子さんが何かにつまずいたとき、少しだけ声かけの視点を変えてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、お子さんの、そして父親であるあなた自身の、より豊かな成長に繋がるはずです。