発達特性のある子の食事の偏り:父親が実践した「食べられた」を増やすステップ
はじめに
お子様の発達特性と向き合う中で、食事に関する悩みをお持ちの父親もいらっしゃるかもしれません。特定の食材しか食べない、新しいものを一切受け付けない、特定の食感や匂いを極端に嫌がるなど、食事の偏りは発達特性のあるお子様によく見られる特性の一つです。
食事が進まないと、栄養面の心配はもちろん、毎日の食卓が親にとって大きなストレスとなることもあります。特に平日は仕事で忙しい中、限られた時間でどう関われば良いのか、悩まれている方も少なくないでしょう。
この記事では、発達特性のあるお子様の食事の偏りに対し、ある父親がどのように向き合い、どのような具体的なステップを踏んで「食べられた」経験を少しずつ増やしていったのか、その体験談をご紹介します。完璧を目指すのではなく、現実的なアプローチと家族での協力によって、食事の時間が少しでも穏やかになるヒントをお届けできれば幸いです。
具体的なエピソード:偏食との闘いと父親の試行錯誤
私の息子は、幼い頃から非常に強い食事の偏りがありました。特に困ったのは、 - ご飯やパンなど炭水化物以外はほとんど口にしない - 野菜は加熱して形がなくなっても気づくと吐き出す - 新しい食材や料理は絶対に試そうとしない - 匂いや見た目に敏感で、少しでも違うと拒否する といった点でした。
妻は日中、息子と向き合いながら試行錯誤を重ねていましたが、改善は見られませんでした。私は帰宅が遅く、食事の時間はすでに終わっていることが多かったため、「好き嫌いは誰にでもあるだろう」「成長すれば変わる」と楽観的に考えている部分もありました。しかし、息子の偏りが一向に改善せず、栄養バランスの不安や、外食・親戚との集まりでの困りごとが増えるにつれて、これは単なる好き嫌いではない、息子にとって食事自体が大きなハードルなのだと認識するようになりました。
ある休日、息子が食卓につくことすら嫌がる様子を見て、私は何かできることはないかと真剣に考え始めました。妻とも話し合い、まずは「無理やり食べさせるのは逆効果」であることを再確認し、息子が少しでも食事にポジティブなイメージを持てるように、父親として関わってみようと決めました。
私が最初に試したのは、食べる以外の方法で食べ物に触れる機会を作ることでした。例えば、 - スーパーで息子に野菜や果物を自分でカゴに入れてもらう - 一緒に簡単な料理をしてみる(野菜を洗う、ちぎるなど簡単な作業から) - 食材の絵本を読んだり、歌を歌ったりする といったことです。
息子は最初は乗り気ではありませんでしたが、「お手伝い」という形なら抵抗が少ないようでした。特に、自分で選んだ野菜を洗う時などには、食材の形や色に興味を示すこともありました。ただし、すぐにそれを「食べる」ことには繋がりません。焦らず、まずは食べ物に対する抵抗感を少しでも和らげることが目標でした。
次に、調理法や提供方法の工夫を試みました。息子が好む特定の食感(カリカリしたもの、滑らかなもの)や味付け(薄味で特定の調味料)を分析し、嫌いな食材をそれらに近づける努力をしました。例えば、嫌いな野菜を細かく刻んで、息子の好きなハンバーグに混ぜてみたり、ポタージュにして食感をなくしてみたりしました。
これは試行錯誤の連続でした。小さく刻んでも見抜かれたり、一口食べただけで顔をしかめたりすることも度々ありました。成功することもあれば、全くダメなこともあります。失敗が続くと、「やっぱり無理なのか」と落ち込むこともありましたが、妻と「今日は一口挑戦できたね」「〇〇の料理には少し混ぜ込めた」など、小さな変化を共有し、励まし合いました。
私が意識したのは、「食べられなくても怒らない」「一口でも食べられたら大げさなくらい褒める」ことです。息子が特定の食材を「食べられた」時には、「すごいね!」「〇〇、新しい味に挑戦できたね!」といった具体的な言葉で、たくさん褒めました。これにより、息子は「食べること=褒められる嬉しいこと」という経験を少しずつ積み重ねることができたようです。
また、食事のルールとして、「一口だけは味見してみよう」という約束をゆるやかに導入しました。嫌がるときには無理強いせず、「じゃあ今日は見るだけにしておこうか」と柔軟に対応しました。この「味見ルール」が定着するまでにも時間はかかりましたが、根気強く続けることで、少しずつ新しい食材に触れるハードルが下がっていきました。
夫婦での連携も非常に重要でした。お互いがどんな工夫を試したか、子どもの反応はどうだったかを毎日短時間でも共有しました。特に仕事で遅くなる日は、妻から息子の食事の様子を聞き、必要であれば翌日の対応について相談しました。一人で抱え込まず、情報を共有し、同じ方向を向いて関わることが、私たちの支えとなりました。
これらの取り組みを通じて、劇的に偏食が改善したわけではありません。今でも食べられないものはたくさんあります。しかし、以前は全く口にしなかった野菜を少量なら食べられるようになったり、新しい料理を一口だけ試してみたりと、少しずつ「食べられた」という成功体験が増えていきました。そして何より、食事の時間が以前ほど緊迫したものから、少し穏やかな時間へと変わりつつあります。
体験から得られた学びと父親へのヒント
この経験を通して、忙しい父親である私が学んだこと、そして同じような悩みを持つ父親の皆様にお伝えしたいことはいくつかあります。
- 完璧を目指さないこと: 食事の偏りをゼロにするのは非常に難しい場合があります。まずは「一口でも挑戦できた」「食卓に座っていられた」など、小さな目標を設定し、その達成を褒めることから始めてみましょう。
- 子どもの感覚特性への理解を深める: なぜ特定の食材が苦手なのか、食感、匂い、温度など、子どもの感じ方を理解しようと努めることが大切です。専門機関からのアドバイスや情報収集も役立ちます。
- 具体的なスモールステップを設定する: いきなり「これを全部食べよう」ではなく、「今日はこの食材に触れてみよう」「一口だけ味見してみよう」など、子どもにとって無理のない小さなステップを設定します。父親が主導して、具体的な「やることリスト」を作るのも良いでしょう。
- ポジティブな声かけを増やす: 食べられなかったことに注目するのではなく、挑戦できたこと、頑張った過程を具体的に褒めることで、子どもの自己肯定感を育み、次の挑戦に繋がります。
- 家族で情報を共有し、連携する: 夫婦で子どもの食事の様子や試している工夫、その結果などを共有し、共通理解を持つことが重要です。忙しい中でも、短い時間で良いので毎日の様子を伝え合いましょう。父親が週末に特定の工夫を試すなど、役割分担も有効です。
- 専門家の力を借りることも検討する: 必要に応じて、栄養士や言語聴覚士など、食事に関する専門家に相談することも有効です。彼らから得られる具体的なアプローチ法が、新たな突破口となることもあります。
まとめ
発達特性のあるお子様の食事の偏りや困難は、多くのご家庭で経験される課題です。多忙な日々の中で、父親がこの問題に積極的に関わることは容易ではないかもしれません。しかし、無理強いせず、子どもの特性を理解しようと努め、小さな挑戦を促し、成功体験を共に喜ぶという具体的な関わりは、確実に子どもに変化をもたらします。
今回ご紹介した体験談のように、劇的な変化は時間がかかるかもしれませんが、父親が関わることで、子どもは安心感を得たり、新たな挑戦への意欲を持ったりします。そして、それは家族全員が食事の時間を少しでも心地よく過ごすための一歩となります。
まずは、週末の朝食で新しいフルーツを一つテーブルに置いてみる、といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。焦らず、根気強く、お子様のペースに合わせて寄り添うことが大切です。今回の情報が、皆様の毎日の中で、少しでも参考になれば幸いです。